解説
第81回アカデミー短編アニメーション賞や2008年アヌシー国際アニメーション映画祭グランプリを受賞するなど、高い評価を受けた短編アニメ。監督は「R」「或る旅人の日記」など短編アニメを制作してきた加藤久仁生。海の上に建つ積み木のような家に住んでいるおじいさんは、海面がどんどん上がってくるので、家を上へ上へと建て増し続けていく。そんな不思議な家に住んでいるおじいさんの、家族との思い出の物語。
つみきのいえ : 作品情報 – 映画.com (eiga.com)
2008年の制作・12分・日本
絵と音楽だけの世界
こちらの作品は、ナレーションあり・なし2つのバージョンがあるようです。
わたしは、ナレーションのない方を鑑賞しました。
会話のシーンは一切なく、主人公であるおじいさんの表情やシーンのみです。
短い作品ですが、ぎゅっと素敵なものが詰まった宝箱のような展開に、感動を覚えます。
見始めは、???となるかもしれませんが、物語がすすむにつれて、世界観に引き込まれています。
優しくちょっぴり切なく、心がぽかぽかするようなあたたかい物語に、大切な人をぎゅっと抱きしめたくなる作品です。
次からはネタバレになるので、もしまだ未見の方はお戻りください。
ぜひ12分の魅力を予備知識なしで感じていただきたいです。
海に積みあがる家(ネタバレ)
おじいさんは、海から積みあがった家に一人で住んでいました。
周りには同じような積みあがった家がちらほら。
家の中でゆっくり過ごしたり、釣りをしたり、静かな日々を過ごしているようです。
ある日、おじいさんはいつものように目を覚まし、パイプをくわえます。
足をベッドからおろすと、海の水かさが増して床が浸水していました。
海の水はどんどん増えているようです。
おじいさんは業者の人に頼んで、荷物を屋上へと運んでもらいます。
屋上へまた新たな部屋を作るようです。レンガを積み、壁ができ、部屋が出来上がりました。
出来上がったら、今までの部屋から残りの家具をお引越しです。
すでに浸水している部屋で小船を使い、よいしょっと棚を持ち上げます。
その拍子にいつも吸っているパイプを落としてしまいます。
パイプは開けっ放しにしていた下の部屋につながる扉を通り、見えなくなりました。
肩を落とすおじいさん。
代わりのパイプを探すために船のコンビニみたいなスーパーみたいなのを家まで呼んで、選んでいました。
いいのがないな・・・なんて思いながらふとコンビニ船に目をやると、売られていたダイバースーツを見つけます。
おじいさんは、それを購入し海に潜り、パイプを拾いに行くことにしたのです。
どぼん、と下の階に行くための扉から海に飛び込みます。
パイプはすぐに見つかり、拾い上げるおじいさん。
ふわっと記憶が蘇ります。
おばあさんが、眠ってしまい落したパイプを拾い上げ、おじいさんに渡してくれたのでした。
あまりにも鮮明な記憶に、あたりをきょろきょろと見渡します。
おばあさんが生きているんではないかと錯覚したからです。
おじいさんは、さらに下の階へと進んでいきます。
おばあさんをベッドで看病した階。
子どもと孫と自分たちが過ごした階。
子どもが結婚の報告をして旅立っていった階。
子どもが小さい頃と若いおばあさんと過ごした階。
思い出に浸りどんどん潜っていくと、かつての地上だった場所にたどり着きます。
そこには、草地が生い茂り、大きな一本の木があったようです。
その木は幼馴染だったおじいさんとおばあさんの思い出いっぱいの木。
遊んだ思い出、雨の日に傘を差した思い出、告白をして結ばれた思い出。
その思い出におじいさんの顔に明るさが戻ります。
ふと後ろを振り返ると、自分が積み上げてきた家がそこにはありました。
思い出いっぱいのつみきのいえ。。。
部屋に戻り、しばらく思い出に浸っていました。
おばあさんと過ごした時間の乾杯をしたことを思い出しました。
辺りを見渡すと、当時使っていたグラスが落ちていました。
おじいさんは、そのグラスを今の住んでいる部屋に持ち帰ります。
口にはお気に入りのパイプ。そしてふたつ並んだグラス。
嬉しそうにワインを注ぎ、グラスを持ち上げます。
そこにおばあさんがいるかのように、おじいさんはカチンと乾杯するのでした。
わたしなりの考察
最後の乾杯のシーンのグラスが響く音がなんとも感動的ですね。
ここからは、わたしなりの考察をお伝えしていきます。
不自由さ=海。
おじいさんとおばあさんの出会いは地上でした。
それは、何にもしばられない自由さを表しています。
二人は夫婦となり、誓約が結ばれます。
それは不自由も生まれるでしょう。
今までみたいに、自由に草地を走り回ることは難しくなります。
しかし、そこから二人の物語がはじまるのです。
時の流れ=海。
時間が経つにつれて、海のかさが増しています。
それは、時の進みを意味しています。
また、おじいさんを軸に物語が進んでいることもあり、周りにぽつぽつとしか家がなかったり、屋根だけがちょこっと出ている家があるのは、おじいさんと関りのある人達が減ってきていることが伺えます。もう亡くなったお友だちなんかも表しているんではないかと思います。
積みあがる家=思い出。
家族が増えたり減ったりするごとに、家の形が途中で変わっていました。
過ごした時間の思い出の量なんだと思います。
人が多ければ思い出の量も多くなるのかなと。
家が海に浸かる=思い出に浸る
おじいさんが海に潜っていったとき、あふれだす思い出のシーンに、思い出に浸るという言葉がそのまま海を表しているようでした。素敵な家族に囲まれたおじいさんは、海のように広く深い思い出がたくさんあるんですね。潜ればまた蘇ってくるのが、思い出なのかもしれません。
さいごに
12分という長さにぎゅっと詰まった素敵なおじいさんの思い出。
優しくちょっぴり切なさも感じ、見終わったあなたは大切な人をぎゅっと抱きしめたくなっているのではないでしょうか。
おじいさんのように、ひたひたの思い出を増やしていきたいですね。
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